
【沖縄の賃貸トラブル】建物の老朽化で「立ち退き」を求められたら?正当事由と立退料の法律実務を弁護士が解説
2026年10月31日
はじめに:老朽化した建物の建て替えと立ち退きの問題
古いアパートや店舗、住宅の建て替えにともなって、大家さんが入居者に立ち退きを求める場面があります。沖縄県内にも築年数を重ねた鉄筋コンクリート(RC)造の建物は少なくなく、建物の傷み具合によっては、オーナー様が建て替えを考えることもあるでしょう。ただし、建物がどれだけ傷んでいるか、安全面でどんな問題があるかは建物ごとに違います。耐震診断や劣化診断などの資料をもとに、一棟ずつ見ていく必要があります。
入居者様やテナント様にとっても、立ち退きを求められることは生活や事業の土台にかかわる問題です。「長く住んだ地域を離れたくない」「近くで同じくらいの家賃の物件が見つからない」「店を移すと常連のお客様が離れてしまう」など、それぞれに事情があります。
大家さんから「建物が古いので、半年後までに出て行ってほしい」「契約満了なので更新しません」と言われたら、借主はそのとおりに退去しなければならないのでしょうか。また大家さんは、どうすれば法律に沿って退去を求めることができるのでしょうか。この記事では、借地借家法の「正当事由」と「立退料(たちのきりょう)」の考え方を説明します。
まず確認したいこと:契約の種類
立ち退きのルールは、どの種類の賃貸借契約を結んでいるかで大きく変わります。
- 普通建物賃貸借(普通借家):一般の住居や店舗の多くはこの契約です。この記事では主にこちらを説明します。
- 定期建物賃貸借(定期借家):書面などで契約し、事前に「更新がない」ことを書面で説明していることなど、法律の条件を満たした契約です。期間が満了すれば更新されずに終わります(借地借家法38条)。期間が1年以上の場合は、大家さんが期間満了の1年前から6か月前までの間に、契約が終わることを通知する必要があります。
- 取壊し予定の建物の賃貸借:法令や契約で、一定の期間が過ぎたら建物を取り壊すことがはっきりしている場合に、「取り壊すときに契約が終わる」と書面で決めておく契約です(同法39条)。
立ち退きを求めたり、求められたりしたときは、まず契約書を見て、どの契約にあたるのかを確認することが大切です。
普通借家の立ち退き要求は拒否できる?「正当事由」の基本ルール
借主を守る「借地借家法」のしくみ
普通借家には借地借家法が適用され、借主(賃借人)の権利がしっかり守られています。
契約期間が決まっている場合、大家さんが更新を断るには、期間満了の1年前から6か月前までの間に、更新しないことを借主に通知する必要があります(同法26条)。この通知がなければ、契約は前と同じ条件で更新されたものとみなされます(法定更新)。通知をしていても、期間満了後に借主が建物を使い続け、大家さんがすぐに異議を言わなかった場合も同じです。
契約期間が決まっていない場合(法定更新されたあとの契約もこれにあたります)、大家さんが解約を申し入れると、申し入れた日から6か月がたった時点で契約が終わるとされています(同法27条)。
ただし、更新を断る場合も、解約を申し入れる場合も、大家さんの側に「正当な事由(正当事由)」があることが必要です(同法28条)。正当事由がなければ、通知や申入れをしても契約は終わりません。「契約満了なので更新しない」「半年後までに出て行ってほしい」と伝えただけで、すぐに退去しなければならなくなるわけではありません。
「老朽化しているから出て行って」はそのまま通るのか?
「建物が古い」「建て替えたい」というだけでは、正当事由が当然に認められるわけではありません。
建物が老朽化している、建て替えが必要だという事情は、大家さんがその建物を使う必要性を示す事情の一つとして考えられます。裁判所が見るのは、この事情だけではありません。借主がその建物を使い続ける必要性や、これまでの経緯なども合わせて、全体として判断します。建て替えの計画があることや、マンションで建替え決議がされたことだけで、借主に対する正当事由が当然に認められるわけでもありません。
建物の状態について、裁判例では、耐震性能、倒れたときに周りに危険が及ぶかどうか、耐震補強工事をすることが費用の面で合理的かどうか、といった点が考えられています。耐震性が非常に危険な水準で、補強工事も合理的でないとして正当事由が認められた例があります。一方で、耐震性能に問題はあっても危険が差し迫っているとはいえないとして、立退料を申し出ただけでは足りないとされた例もあります。結論は、それぞれの事情によって変わります。
「正当事由」を判断する要素
借地借家法28条は、正当事由を判断するときに考える事情として、次のものを挙げています。
① 大家さんと借主がそれぞれ建物を使う必要がある事情
判断の中心になるのは、どちらがどれだけその建物を必要としているか、という比べ合わせです。
大家さん側では、建物の構造上の危険性(耐震性の不足や、ひどい劣化があるか)、大家さん自身が生活や事業のためにその建物を使う必要があるか、建て替えの必要性などが考えられます。借主側では、高齢であることや、通院・引越しが難しいこと、店舗を長く営業していて移転すると事業を続けにくくなることなど、その場所で暮らしたり営業したりする必要性が考えられます。どれも、ほかの事情と合わせて判断されるものです。
② 賃貸借についてのこれまでの経過
契約を結んだときの事情、契約していた期間、権利金・更新料などを支払ったかどうか、家賃の支払い状況(滞納などの契約違反があったか)といった、これまでのいきさつが考えられます。入居していた期間の長さや家賃の支払い状況は一つの要素であって、それだけで結論が決まるわけではありません。
③ 建物の利用状況
建物が今どう使われているか(ほとんど空室なのか、多くの部屋が使われているのか)、借主が住まいとして使っているのか事業に使っているのか、などです。
④ 建物の現況
建物の老朽化の程度、耐震性、修繕や補強で使い続けられるか、そのための費用はどのくらいか、など建物そのものの状態です。
⑤ 立ち退きにともなう財産上の給付(立退料の申出)
大家さんが立退料などのお金を払うと申し出ていることも、考える要素の一つです。大家さん側の事情だけでは正当事由として少し足りない場合に、立退料を申し出ることで足りない部分を補える、と考えられています。
ただし、「お金さえ払えば追い出せる」という制度ではありません。大家さんが建物を使う必要性がほとんどないのであれば、高い立退料を申し出ても正当事由は認められにくくなります。立退料は、大家さん側にある程度の必要性があることを前提に、それを補う役割を持つものです。
立退料の金額はどう決まる?
決まった計算式や「相場」はありません
「立退料は家賃の〇か月分が相場」といった話を聞くことがありますが、法律で決まった計算式はなく、一般的な相場もありません。裁判で立退料の額を決めるときは、契約がいつどんな内容で結ばれたか、どう使われてきたか、申入れをした時点での大家さん・借主それぞれの事情などを全体として比べて判断されます。「借家権価格」が参考にされることもありますが、判断材料の一つにすぎず、裁判所がその金額に縛られるわけではありません。
実際の裁判例でも、認められた立退料は百数十万円程度から数億円まで幅があり、それぞれの事情によって大きく違います。
立退料を考えるときに検討される主な費用
金額は全体を見て判断されますが、実際には次のような費用や損失が検討の材料になります。
【住居の場合】
- 引越し費用
- 新しい住まいを借りるための費用(仲介手数料、礼金など)
- 近くの同じくらいの物件に移ることで家賃が上がる場合の差額
- 引越しにともなうその他の費用
【店舗・事業用の場合】
- 移転先を確保するための費用
- 内装・設備の移転費用
- 移転のために営業できない期間の損失(休業補償)
- 移転によってお客様が減ることなどによる営業上の損失
どの費用をどこまで含めるか、何か月分・何年分を見込むかは、事情によって変わります。営業権や場所の利益(いわゆるのれん)は、実務上お金の価値を持つと考えられることもありますが、法的な扱いには議論があり、当然に全額が補償されるわけではありません。
いずれにしても、だいたいの見積もりではなく、確定申告書・決算書、移転先の見積書、引越し費用の見積書などの資料をもとに、なぜその金額なのかを示すことが大切です。
トラブルをこじらせずに話し合いで解決するために
立ち退きの話がこじれて裁判になると、建て替えが大きく遅れたり、借主にとっても負担が長く続いたりします。
大家さんとしては、一方的に通告するのではなく、建物の状態や建て替えが必要な理由を、診断結果などの資料を示しながらきちんと説明し、補償の案を出して話し合うことが望ましいといえます。退去までの期限は、借主が移転先を探したり、店舗を移す準備をしたりする時間も考えて設定することが大切です。なお、法律上の「6か月」は普通借家の解約申入れから契約が終わるまでの期間です。話し合いのときに最低限これだけあれば足りる、という意味ではありません。
借主としても、ただ拒否するだけでは解決に向かいにくいものです。正当事由があるかどうかは個別の事情によって判断されるため、建物の状態や双方の事情によっては、裁判で退去を命じられる可能性もあれば、正当事由が認められない可能性もあります。転居や移転に実際にどのくらい費用がかかるのかを資料で整理し、それをもとに条件の交渉をすることが現実的です。
立ち退きを求める側・求められる側のどちらでも、契約の種類、通知の時期、正当事由と立退料の見通しは、事情によって大きく変わります。早い段階で弁護士に相談されることをおすすめします。
まとめ:沖縄での立ち退き問題・不動産トラブルは当事務所にご相談ください
建物の老朽化に伴う立ち退き問題は、借主にとっては生活環境や事業継続に関わる重大事であり、大家にとっても建物の保全や不動産資産の有効活用に向けた切実な問題です。借地借家法が定める「正当事由」や「立退料」の判断は非常に専門的で、個別具体的な事情(建物の劣化度合い、入居期間、周囲の家賃相場、営業実態など)によって妥当な落としどころは大きく異なります。当事者同士だけで感情的に交渉を続けると、関係が悪化して解決が長期化してしまいがちです。立ち退きを求められて困っている入居者様も、建て替えに伴う明渡し交渉を円滑に進めたいオーナー様も、早い段階で不動産問題に詳しい弁護士へご相談されることを強くお勧めします。
那覇市のスマートリーガル法律事務所では、沖縄県内の借地・借家をめぐるトラブルや立ち退き交渉について、双方の立場から数多くのご相談をお受けしております。法律の専門用語を使わず、丁寧で分かりやすい説明を心がけております。「大家さんから突然退去を迫られて困っている」「老朽化したアパートの建て替えで立ち退きをどう切り出せばいいかわからない」とお悩みの方は、お一人で抱え込まずにお気軽にご相談ください。当事務所では、LINEによる相談予約も受け付けておりますので、まずは身近な手段で安心してお問い合わせください。