労務問題

2025/06/08 労務問題

契約社員、5回目の契約更新…もう辞めてもらっても大丈夫?

うちの会社も?よくあるこんなケース

入社してから1年ごとの契約更新を繰り返し、気づけば5回目。まもなく勤続6年目を迎えようとしている契約社員のBさん。

上司は「そろそろ新しい人に代わってもらおうかな…」と、次の契約更新をしない「雇止め(やといどめ)」を考えています。

しかし、ちょっと待ってください!契約更新がこれだけ続くと、会社が簡単に「はい、さよなら」とは言えなくなるケースがあるんです。特に「労働契約法19条」というルールが、その判断に大きく関わってきます。

知っておきたい!「労働契約法19条」と“更新への期待”

「労働契約法19条」とは、簡単に言うと、以下の条件が揃うと、会社が「契約期間が終わったから」という理由だけで雇止めをすることが難しくなる、というルールです。

  1. これまでに何度も契約が更新されている。
  2. 契約社員が「次も更新してもらえるだろう」と期待するのがもっともだと思われる状況がある。

このような場合、会社が雇止めをするには、「客観的に見て納得できる理由があり、社会の常識に照らしてもひどすぎない」と判断される必要があります。

では、どんな場合に「次も更新してもらえるだろう」という期待(これを「合理的期待」と言います)があると判断されるのでしょうか?過去の裁判例では、主に以下の5つの要素でチェックされています。

  1. 契約更新の回数や合計の勤続年数:やはり回数や年数が多いほど、期待は高まります。
  2. 会社側の言動:「また来年も頼むよ」といった更新を匂わせるような発言があったか。
  3. 仕事の内容:一時的なプロジェクトの仕事ではなく、会社にとって常に必要な仕事だったか。
  4. 働き方の実態:フルタイム勤務で、仕事内容も正社員とあまり変わらなかったか。
  5. 契約社員側の生活状況:この仕事を続けることを前提に、家を買ったり引っ越したりしていたか。

ポイントは、これらの要素が複数当てはまるほど、「更新への期待があった」と判断されやすくなるということです。

最新の裁判例から見る「OK」と「NG」の境界線

実際に、どんなケースで雇止めが「有効(OK)」とされ、どんなケースで「無効(NG)」とされているのでしょうか?

事件の概要

裁判所の判断

奈良女子大学のケース(最高裁判所 令和2年3月30日判決)
・16年間も契約更新
・働き方は正職員とほぼ同じ

雇止めはNG!
「これだけ長く、正職員と同じように働いていたら、次も更新されると思うのは当然でしょう」という判断。

北海道の郵便局のケース(札幌高等裁判所 令和5年11月17日判決)
・契約更新は2回
・仕事は季節限定(例:お歳暮時期の短期業務など)

雇止めはOK!
「仕事が季節的なものに限られていたし、更新回数も少ないから、更新への期待はそれほど強くなかったでしょう」という判断。

横浜の港湾運送会社のケース(横浜地方裁判所 令和4年6月9日判決)
・契約更新5回
・契約書に「更新は5回まで」とハッキリ書いてあった

雇止めはOK!
「契約を結ぶときに『更新は5回までですよ』とちゃんと伝えて、本人も納得していたなら、その上限での雇止めは問題ないでしょう」という判断。

ここから分かる実務のヒント

  • 契約を結ぶ時に「更新の上限は〇回までです」とハッキリ伝えておくこと。
  • 仕事内容が一時的なもの、季節的なものであることを明確にしておくこと。

この2つが揃っていると、雇止めが認められやすい傾向にあります。

逆に、「更新10回以上」「正社員と区別なく働いている」「会社の通常業務を担当」といった要素が重なると、雇止めが無効と判断されるリスクが高まります。

 

雇止めを進めるなら、この手順で!

実際に雇止めを行う場合、トラブルを避けるためには丁寧な手順が大切です。

  1. 3ヶ月前には伝える(通知)
  • 法律で決まっているわけではありませんが、過去の裁判例などを見ると、少なくとも1~3ヶ月前には本人に伝えるのが一般的です。会社の忙しい時期を避け、本人が次の仕事を探す時間を確保できるように配慮しましょう。
  1. 理由をきちんと説明し、記録に残す(説明面談+議事録)
  • なぜ契約を更新しないのか(例:担当業務がなくなる、人事評価の結果など)、直接会って、口頭で丁寧に説明します。感情的にならず、客観的な事実を伝えることが大切です。
  • 話し合った内容は必ず記録(議事録)に残し、可能であれば本人にも確認してもらい、サインをもらうか、内容確認のメールなどを送りましょう。データ(PDFなど)で保存しておくと安心です。
  1. 他の選択肢も示す(配置転換・無期転換の機会提供)
  • 契約社員にも、一定の条件を満たせば期間の定めのない契約(無期雇用)への転換を申し込む権利(労働契約法18条)があります。これを踏まえ、「他の部署の仕事ならありますよ」「無期雇用の採用試験を受けてみませんか?」といった選択肢を示すことも、後々のトラブル防止に繋がります。

書式例:こんな書類を用意しよう

(1)雇止め通知書(サンプル)

【雇止め通知書】

契約社員 ____ 様

あなたが当社と締結している雇用契約(令和○年○月○日締結、更新上限5回と明示)につきまして、

契約書に記載の更新上限に達したこと、および当社の業務縮小により、

令和○年○月○日をもって契約期間満了とし、次回の契約更新は行わないことを通知いたします。

なお、社内で募集している他の職種へ応募することは可能です。ご希望の場合は、○月○日までに人事部へお申し出ください。

令和○年○月○日

株式会社△△

人事部長 ____

【ポイント】

  • いつ契約が終了するのか、その理由(更新上限到達、業務縮小など)を明確に記載します。
  • 他の選択肢(他職種への応募など)があれば、それも伝えましょう。

(2)説明メモ(面談で使う資料の例)

  1. 更新上限と業務の変化について
  • 採用時にお伝えした通り、今回の契約で更新は5回目となり、これが上限となります。
  • また、〇年〇月から新しいシステムが導入されることに伴い、あなたが現在担当している従来の業務が終了となります。
  1. あなたの成績・行動評価について(主な点)
  • 残念ながら、直近3回の評価期間において、あなたの評価は当社の基準Cでした。
  • これまで改善のための指導を行ってきましたが、現時点では基準に達していません。
  1. 今後の選択肢について

A)無期転換選考(現在募集中の職種:〇〇)に応募する

B)当社の協力会社への出向(条件などは別紙でお渡しします)を検討する

  1. ご質問はありますか?

【ポイント】

  • 面談で何を伝えるか、事前に整理しておくとスムーズです。
  • 客観的な事実(契約内容、評価結果、業務の変化など)を伝えることが大切です。
  • 一方的な通告にならないよう、質問の時間も設けましょう。

まとめ:契約更新が5回目になったら考えるべき「3つのステップ」

契約社員の更新が5回目を迎えるような状況になったら、以下の3つのステップで対応を検討しましょう。

  1. 契約書をもう一度チェック!
  • 「更新の上限回数」や「仕事内容が一時的なものか、常に必要なものか」などが、契約書や関連資料にハッキリ書かれていて、本人に説明できていますか?
  1. 「更新への期待」5要素を自己診断!
  • 上で説明した5つの要素のうち、あなたの会社のケースではいくつ当てはまりますか?4つ以上当てはまるようなら、雇止めが無効と判断されるリスクが高いかもしれません。
  1. もし雇止めするなら、丁寧な手順で!
  • 「3ヶ月前には伝える」「直接会って理由を説明し、記録に残す」「他の選択肢も示す」という流れを基本に、慎重に進めましょう。

 

弁護士にLINEで相談するならこちらから

 

免責事項・更新日

この記事は、2025年6月2日時点の法令や判例にもとづいて書かれています。実際の問題は、それぞれの状況によって結論が異なることがあります。最終的な判断は、必ず専門家にご相談ください。

執筆・監修:スマートリーガル法律事務所(弁護士 寺口飛鳥)

© スマートリーガル法律事務所