労務問題

2025/06/02 労務問題

社員に辞めてもらう前に必読!トラブル回避のための解雇ガイド

会社の日常、こんな場面ありませんか?

営業成績がなかなか上がらず、周りのやる気までダウンさせてしまうAさん。ついに社長が「もう我慢できない!今日限りで辞めてもらう!」とカッとなってしまいました。

でも、感情に任せて解雇を言い渡してしまうと…

  • 「不当な解雇だ!」と訴訟を起こされるかも…
  • もし訴訟で負けたら、働いていない期間の給料(これを「バックペイ」と言います)をそっくり支払う羽目に…
  • SNSで「あの会社はひどい!」と悪い噂が広まって、会社の信用がガタ落ち

こんな大変な事態に陥ってしまう可能性があります。

では、社員に辞めてもらうと決める前に、どんなことを、どんな順番でチェックすれば良いのでしょうか?

知っておきたい!主な解雇のパターン(従業員に問題がある場合)

まず、従業員の行動や能力に問題がある場合の代表的な解雇パターンを2つ見ていきましょう。大切なのは、**「どんなルールに基づいて、裁判所がどこをチェックするのか」**を把握しておくことです。

1. 普通解雇:「働きぶりや能力がちょっと…」というケース

  • 主なルール:労働契約法 第16条
  • 裁判所はここを見る!
    • 本当に問題があったの?:成績が悪い、他の社員とうまくやれない、といった事実が客観的に証明できるか。
    • 解雇はやりすぎじゃない?:解雇する前に、例えば他の部署へ異動させたり、役職を下げたりするなど、もっと軽い対応で改善の可能性はなかったか?本当に解雇しか手段がなかったのか、という視点で厳しく見られます。
    • 平たく言うと…:「本当にその社員の働きぶりに問題があったの? 会社が感情的にクビにしただけじゃないよね? 他にできることはなかったの?」という点を厳しく見られます。

2. 懲戒解雇:「会社のルールに大きく違反した!」というケース

  • 主なルール:労働基準法 第15条 + あなたの会社の就業規則
  • 裁判所はここを見る!
    • 会社のルールブック(就業規則)に書いてある?:解雇の理由となる違反行為が、就業規則にハッキリと書かれているか。
    • 本当に重大な違反?:お金の横領や暴力行為など、誰が見ても「それはアウトでしょ!」と言えるレベルのひどい行いか。
    • 平たく言うと…:「就業規則にちゃんと書いてある? しかも、一発でクビになるほど悪いことしたの?」という点をチェックされます。

解雇を進めるなら、このステップで!(普通解雇・懲戒解雇の場合)

  1. 事実確認と指導の記録をしっかり残す

    • 勤怠の記録、仕事の評価、指導した内容のメモなどを、日付順に整理しておきましょう。
    • 本人と面談するたびに、<いつ/どんな指導をしたか/本人は何と言っていたか>を記録し、上司など2人以上でサインして保管しましょう。これが後々、大切な証拠になります。
  2. 会社のルールブック(就業規則)と照らし合わせる

    • 普通解雇や懲戒解雇のルールに当てはまるか確認します。当てはまらない場合や、解雇までは難しいと判断される場合は、話し合いで合意して辞めてもらう(合意退職)方向で考えましょう。
  3. 弁護士に相談して、法的に問題ないかチェックしてもらう

    • これまでの指導記録が十分か、解雇理由が法的に見て妥当かなど、専門家の目で客観的に見てもらいましょう。
  4. 本人と面談し、解雇(または合意退職)を伝える

    • 解雇を伝える日は、辞めてもらう日の30日以上前に。もし30日を切ってしまう場合は、30日分の平均賃金(解雇予告手当)を支払う必要があります(労働基準法 第20条)。

【面談の進め方:こんな感じで(普通解雇を想定)】

  • 目的:問題点を具体的に伝え、最後の改善チャンスを与えること。そして、その内容を記録に残すこと。
  • 進め方
    • これまでの指導記録を見せながら、具体的な問題点を一つひとつ説明します。
    • 「いつまでに、何を、どれくらい達成してほしいか」という改善の期限と具体的な目標をハッキリ伝えます。(例:「来月末までに、契約を〇件取ってください」)
    • もし目標が達成できなかった場合は、話し合いで退職してもらうか、場合によっては解雇になる可能性があることを伝えます。
    • 本人の言い分をしっかり聞き、その内容を記録(議事録)に残し、本人にもサインをもらいましょう。
    • ポイント! 面談は、必ず会社側から2人以上で同席し、話し合った内容は議事録としてデータ(PDFなど)でしっかり保存しておきましょう。

もし「不当解雇」と判断されたら…いくら払うことになるの?(バックペイの簡単計算)

「バックペイ」とは、不当解雇と判断された場合に、会社が元従業員に支払わなければならない、解雇されてから解決するまでの期間の給料のことです。

  • 計算の基本:月給 × 解雇されていた月数 = 基本額
  • これに加えて、遅延損害金(年3% ※2025年5月現在)がかかります。
  • さらに、会社が負担していた社会保険料も、さかのぼって支払うことになる可能性があります。

例えば、月給30万円の社員を8ヶ月後に不当解雇と判断された場合…

  • 基本額:30万円 × 8ヶ月 = 240万円
  • 遅延損害金(ざっくり計算):240万円 × 3% × (8ヶ月 ÷ 12ヶ月) ≒ 4.7万円
  • 合計:約245万円 + 社会保険料の会社負担分

「もう1ヶ月、改善指導を続けてみるコスト」と比べると、焦って解雇してしまった場合の損失の大きさが分かるはずです。

整理解雇を進める場合のステップ

上記の一般的な解雇手続きに加え、整理解雇の場合は特に以下の点が重要になります。

  • 社内での慎重な検討と計画策定:「どれくらい人を減らす必要があるのか」という人員削減計画書や、各部門の経営状況、配置転換の検討メモなどを準備し、上記の4要件を満たせるか社内で徹底的にレビューし、承認を得る手続き(稟議)にかけましょう。
  • 弁護士によるリーガルチェックの重要性:整理解雇の要件を満たしているか、説明資料に不備はないかなど、専門家の目で厳しくチェックしてもらうことが不可欠です。

これだけは揃えておきたい!必要書類の例

(1)指導記録シート(一部抜粋)(普通解雇・懲戒解雇の場合)

【指導記録シート】 対象従業員:_____  所属:_____ 指導日:__年_月_日  同席者:課長〇〇/係長△△ 指導内容:売上目標が達成できていない(目標の60%) 本人コメント:「見込み客はいくつかあります」 次回面談予定:__年_月_日 署名:____________________

(2)整理解雇の説明資料(目次の例)(整理解雇の場合)

  1. なぜ事業を小さくする必要があるのか(背景と数字での根拠)
  2. 他にコストを減らす方法や、社員を他の部署へ移すことを検討した経緯
  3. 誰に辞めてもらうかを選んだ基準
  4. いつ辞めてもらうか、退職金の上乗せなど条件面について
  5. 労働組合や社員の代表者と、どんな話し合いをしたかの結果

(3)普通解雇通知書(サンプル)

__年_月_日 ______ 様

当社の就業規則 第〇条にもとづき、__年_月_日をもって、あなたを解雇いたします。 【解雇の理由】 ・________________________ 解雇予告に代わる手当として、平均賃金の30日分をお支払いいたします。

株式会社〇〇 代表取締役 ____

解雇トラブルを避ける!5つの重要チェックポイント

  1. 就業規則の書き方があいまいになっていませんか?

    • 「勤務態度が悪い場合は解雇」と書いてあるだけでは、裁判所に「具体的に、どこがどう悪かったの?」と厳しく聞かれます。
    • 対策:どんな場合に解雇になるのか、具体的な例(「成績不良が〇ヶ月続いた」「無断遅刻を〇回繰り返した」など)を就業規則に詳しく書いておきましょう。
  2. 指導や注意の記録、ちゃんと残していますか?

    • 口で叱っただけ、話し合いの記録もサインもなし…これでは「いきなりクビにされた!」と見なされて、解雇が無効になる可能性が高まります。
    • 対策:面談するたびに、<いつ/どんな指導をしたか/本人は何と言っていたか>を必ず書面にし、本人にもサインをもらいましょう。これだけで、証拠としての力が格段にアップします。
  3. 「懲戒解雇」にこだわりすぎていませんか?

    • お金の横領や暴力といった、誰が見ても「ひどい!」と言える証拠がないのに懲戒解雇を強行するのは、とても危険です。もし無効になったら、バックペイに加えて慰謝料まで請求されるダブルパンチも…。
    • 対策:「証拠がちょっと弱いかな…」と感じたら、普通解雇や、話し合いで合意して退職してもらう方法を早めに検討しましょう。
  4. SNSでの拡散リスク、軽く見ていませんか?

    • 最近、解雇された社員がX(旧Twitter)や会社の口コミサイトなどで、会社名を名指しで批判するケースが増えています。たとえ法的には会社が正しくても、会社の評判が悪くなると、新しい人が採用しにくくなったり、取引先から契約を切られたりするかもしれません。
    • 対策:解雇の手続きは、どこから見ても公平だと言えるように徹底しましょう。「きちんと説明した」「話し合いの記録もある」「本人のサインもある」という状態にしておけば、万が一情報が広まっても、堂々と説明できます。
  5. 法律の改正や新しい裁判例をチェックしていますか?

    • 労働に関する法律は、時々変わります(例えば、2025年の秋にも労働基準法の一部改正が予定されています)。古い情報のまま手続きを進めてしまうと、後で「やり方が間違っていた!」と方針変更を迫られる危険があります。
    • 対策:法律の改正ニュースや、最高裁判所の新しい判決などを定期的にチェックし、会社の就業規則や社内ルールを半年ごとくらいに見直す習慣をつけましょう。

まとめ:トラブルなく解雇を進めるための5つのアクション(主に普通解雇・懲戒解雇を念頭に)

  1. 事実の記録や指導の記録は、「紙」と「データ(PDFなど)」の両方でしっかり保管!
  2. (整理解雇を検討する場合は、専門家と相談の上、4要件を厳格にチェック!)
  3. 本人との面談は、録音だけに頼らず、必ず話し合った内容を記録してサインをもらう!
  4. 解雇を決める前に、「もし不当解雇になったら…」という損失額を計算して、冷静に判断!
  5. 解雇通知書を渡した後も、「説明→質問への回答→サインをもらう」まで、気を抜かずにしっかり対応!

免責事項・更新日 この記事は、2025年5月20日現在の法律や裁判例にもとづいて書かれています。実際の問題は、それぞれの状況によって結論が異なることがありますので、最終的な判断は必ず専門家にご相談ください。

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 執筆・監修:スマートリーガル法律事務所(弁護士 寺口飛鳥)

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