労務問題

2025/09/28 労務問題

【ホテル・旅館経営者様へ】問題社員の解雇、その前に。弁護士が教える評判と事業を守る普通解雇の進め方

 「人手不足だから、一人でも辞められると困る。でも、たった一つの悪い口コミが、施設の評判を地に落としかねない…」
ホテル・旅館の経営者や支配人の皆様は、日々このようなジレンマの中で難しい判断を迫られていることと存じます。事実、宿泊業界の約8割が人手不足を感じており、その一方で、予約客の8割以上が予約前に口コミを読む「評判経済」の時代にあって、従業員一人のパフォーマンスが経営に直結します。

この状況で、能力不足や勤務態度に問題のある従業員への最終手段として「普通解雇」を検討する際、その判断と手続きを誤れば、「不当解雇」として訴訟に発展し、多大な金銭的・信用的ダメージを受ける可能性があります。
本記事では、スマートリーガル法律事務所が、宿泊業界の特殊性を踏まえ、問題社員への対応から普通解雇に至るまでの、法的に正しく、かつ実践的な手順を「4つのステップ」で解説します。

なぜホテル・旅館の解雇は難しいのか?法的な大原則

まず大前提として、日本の法律では、会社が一方的に従業員を解雇することは厳しく制限されています。解雇が有効と認められるには、「客観的に合理的な理由」があり、かつその解雇という処分が社会の常識に照らして妥当である「社会通念上の相当性」が必要不可欠です。

これを証明する責任は、すべて会社(ホテル・旅館)側にあります。特に、人手不足を背景に問題を長期間放置してしまった場合、後から「なぜもっと早く指導しなかったのか」と問われかねません。

解雇を検討する前に踏むべき「4つのステップ」

トラブルを避け、万が一の際に会社の正当性を主張するためには、解雇という最終判断に至る前に、以下の段階的なプロセスを丁寧に踏むことが極めて重要です。

STEP 1:客観的な証拠を集める – 「印象」を「事実」に変える

「態度が悪い」「仕事ができない」といった支配人の主観的な評価だけでは、法的な解雇理由として認められません。必要なのは、誰が見ても納得できる客観的な事実の記録です。

【宿泊業界で収集・作成すべき証拠の例】

  • 顧客からのクレーム記録:顧客アンケートの実物、予約サイトに投稿された名指しの批判的口コミのスクリーンショット、クレーム電話の対応記録など。

  • 業務上のミス記録:予約管理システム(PMS)の操作ミスに関するエラーログ、客室清掃後のチェックシートの記録、アメニティ補充漏れなどの具体的なインシデントレポート。

  • 指導記録・面談記録:問題行動について注意指導を行った日時、場所、指導内容、それに対する従業員の反応や弁明を時系列で詳細に記録。

  • 第三者の証言:他の従業員から問題行動についてヒアリングを行い、その内容を陳述書としてまとめておくことも有効です。

STEP 2:改善の機会を与え、記録する –「解雇回避努力」の実行

証拠を集めたら、次は改善の機会を与えます。これは従業員のためであると同時に、会社が「解雇を回避するために努力した」ことを示すための、法律上極めて重要なステップです。

  • 段階的な指導:まず口頭で具体的な問題点を指摘し改善を促し、それでも改善しない場合には注意書や警告書を交付して事態の重大さを伝える。

  • 具体的・測定可能な目標:例「アンケート評価を平均4.0以上で3ヶ月連続獲得」など、客観的な基準を設定する。

  • 再教育:接遇マナー研修やコンプライアンス研修受講、OJTで先輩社員を指導役につけるなど。

STEP 3:解雇以外の選択肢を検討する –「最後の手段」であることの証明

指導を重ねても改善しない場合、それでもすぐに解雇通知を出すのではなく、解雇以外の選択肢(配置転換・降格)を真剣に検討する必要があります。

【検討例】

  • フロント→予約管理やバックオフィス業務

  • 客室清掃→リネン管理・電話交換

  • 支配人→一般職への降格 など

たとえ異動先がない場合でも、「検討はしたが適切なポジションがなかった」「本人に打診したが拒否された」といったプロセスを記録しておくことが重要です。

STEP 4:最終手段としての手続き

すべてのステップを踏んでも改善されない場合、やむを得ず解雇に進みます。
その際も以下の法的手続きを厳格に守ることが求められます。

  • 退職勧奨(任意):退職金の上乗せなど条件を提示し円満退職を打診(※強要はNG)。

  • 解雇通知:30日前予告または解雇予告手当の支払いを行い、就業規則のどの条項に基づき、どのような事実が解雇理由となるのか、文書で明記します。

まとめ:最高のサービスは、健全な労務管理から生まれる

宿泊業界の普通解雇は、人手不足と口コミ時代という二重のジレンマの中で、極めて慎重な判断が求められます。解雇が有効か無効かを分けるのは、企業がどれだけ誠実に、客観的な証拠に基づいて改善の機会を提供し、解雇を回避する努力を尽くしたか――その“プロセス”です。

問題が起きてから慌てるのではなく、採用の段階からミスマッチを防ぎ、日々の指導や評価を記録する文化をつくることこそが、最大のリスク予防法務です。

対応に迷った際には、できるだけ早い段階で、私たちスマートリーガル法律事務所のような労働問題に詳しい弁護士へご相談ください。
それこそが、ホテル・旅館の評判と事業を守る“最も確実で安全な近道”です。

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